息子が10日ほど帰ってきていました。
とはいっても、ほとんど友達と遊びに出かけていたので、顔を合わせたのは食事のときくらい。まとまった話なんて、ほとんどしていません。
それなのに、あの日の一言だけが、今も残っているんです。
食卓で、つい始まってしまう話
身内だけになると、どうしても昔の話になりますよね。そうすると、子どもたちの父親の話がどこかで出てくる。これはもう、避けようがありません。
そして私は、つい悪口になっていくんです。
自分でも分かってはいるんですけど、悪い癖で、一度スイッチが入ると永遠に語ってしまう。もう終わったことなのに、いつまでも言っている。
「もう、悪口話しはやめよう」
その日も、たぶんいつもの流れだったんだと思います。何がきっかけだったのかは、正直もう覚えていません。
ただ、私が話しているところに、息子がさらっと口をはさんできました。
「もう、悪口話しはやめよう」
責める言い方でもなければ、ため息まじりでもなく、たしなめるふうでもなく、本当にさらっと。ついでみたいな軽さでした。
私も、
「あ〜、すんません。そうね」
と返して、それで終わり。気まずくもならず、そのまま普通に別の話に流れていきました。
でも、あとから思い返して、驚いてしまったんです。そんなふうに気づいて、しかもさらっと言える。この子、すごいなと思って。
この子には、しんどい時期がありました
ここを書いておかないと、あの一言の重さが伝わらない気がするので、書いておきます。
息子は子どもの頃、父親に半ば強制的にサッカーをやらされていて、その時期に一時期、心のバランスを崩し、体調もしんどい時期がありました。
だから本当は、父親をかばう理由なんて、ひとつもないんです。
それでも息子は、悪口を止めました。かばったわけではないと思います。ただ、よくないことはよくない。たぶん、それだけのことなんでしょう。
その線引きがちゃんとできる子に育っていたことに、私は驚いたし、正直、尊敬しました。
いつも、誰かが助けてくれる子
念のため言っておくと、優等生では全然ありません。学校の成績は、まあ、ギリギリってところです。
高校受験のときも、中学の先生から「今の成績では全日制は厳しいので、通信制を考えたほうがいい」と言われていたくらいで。
それが、先生同士のつながりで遠方の高校から声をかけていただけることになって、そのまま合格してしまいました。
正直に書きますが、この件について本人は一切、努力をしていません。たまたま、そういう縁があっただけです。奇跡だと思っています。
でも不思議なもので、この子はいつもこうなんですよね。
自分の力はそれほどないのに、いつもいつも周りが助けてくれる。そういう人が、なぜか寄ってくる。自衛隊に入ってからも、たぶん同じなんだろうなと思っています。
私も、子どもに育てられている
二人を育ててきて、反省することばかりでした。でも、そのぶん教えてもらったことも、たくさんあります。
自分が生きてきた環境がすべてではないこと。もっと広い視野を持っていいのだということ。
親が子どもを育てているつもりでいましたが、途中からとっくに逆転していたんですね。
あの日の「もう、悪口話しはやめよう」も、そのひとつです。
10日いて、ほとんど話さなかったのに、いちばん必要な一言だけ置いていってくれました。
そうやって、これからも人生を楽しく過ごしてくれたらいいなと思っています。



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